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何を発信するか。危機にこそ試されるのかもしれない。その影響と結果は、収束後に明らかになるのだろう。
伊原木(いばらぎ)隆太・岡山県知事
山形県が来県者の検温を始めたのに触発され、岡山県でも「県外からの帰省者や旅行客の流入抑止に向けた啓発活動」として実施しようと考えた。高速道のパーキングエリアで4月29日、職員らが県外ナンバーの車に乗った人などの検温を行うと決めた。 その内容を発表した4月24日の記者会見で、「いかに歓迎していないか、警戒しているかっていうことを、主に他県の皆さんにお伝えできる人数」に対して検温し、「声を掛けられた人が、『マズイところに来てしまったな』と、後悔をしていただくようなことになればいいなと思っています」などと述べた。 これが報道されると、県庁には抗議の電話やメールが相次いだ。「2日間で50件程度の苦情がありました。妨害してやる、危害を加えるというような内容もありました」と公聴広報課の職員は話す。
「職員が疲弊してしまう」
結局、伊原木知事は検温を中止すると発表した。そして、「皆さんがビックリするぐらいの言葉を使わなければ、県外で配信してもらえないという思いで、わざと使った面もある。大変多くの方に不快な思いをさせてしまった」と釈明した。 「普段は強い言葉を使わない人です。命に関わる話なので、あえてきつい言い方をしたのだと思います。しかも、県外の人に対してだけでなく、岡山の人も県外に出て迷惑をかけてはいけないと注意を呼び掛けたのですが、記事では県外の部分だけが切り取られてしまいました」と公聴広報課の職員が知事の気持ちを代弁する。
ただし、伊原木知事は検温の撤回時、「高速道路会社には、県内の高速道路の効果的な場所でインターチェンジを閉じていただくようお願いする」と新たな他県民の流入抑止策をぶち上げた。これがまた物議を醸すことになり、「土木部の担当課は今も電話が鳴りっぱなしです。それはもう職員が疲弊してしまうほどです」と前出の職員がため息をつく。
「知事発言で今後の観光に影響が出るかもしれない」
“封鎖”を要望された高速道路はどうなったのか。 西日本高速道路の中国支社は「もちろんどこも封鎖していません。岡山県への物流を滞らせるわけにはいきませんから」と話す。5月1日までの交通量は通常の7割ぐらいに減っているといい、「走行しているのはトラックなどの物流関係に絞られてきています」と語る。 流入抑制のターゲットになった観光地はどうか。美観地区を抱える同県倉敷市の観光課は「県外からの観光客はほとんど来ていません。施設はほぼ休みですし、開いてる店舗も数えるほど」と言う。 観光関係者の1人は「知事発言で今後の観光に影響が出るかもしれないと不安です」と眉を寄せる。「コロナ禍が収まっても岡山には行きたくない」という声が出ているからだ。「新型コロナウイルスの影響とダブルパンチにならないことを願うだけです」と言葉少なだった。
徳島県知事・飯泉 嘉門
県外ナンバーへのあおり運転や投石が発生
県知事の発言は徳島でも話題を呼んだ。徳島県内で4人目の感染者が確認されたことを公表した4月21日、飯泉(いいずみ)嘉門知事が「県内の各施設で県外ナンバー車の実態調査を行う」と明らかにした。神奈川県から帰って来た人が感染するなどしていたのが理由だ。 この発表が引き金となって、県外ナンバーの車へのあおり運転、投石、傷つけ、暴言が発生した。飯泉知事は「強いメッセージになり過ぎたかもしれない」と、他県ナンバーの車に嫌がらせをしないよう県民に呼び掛ける事態になった。
「来ないで」というメッセージに多くの共感が集まった県がある。島根県だ。
帰省者は、戻るのを待ち望む人がいるから帰って来る。そこで4月29日、県民向けに「会いたいからこそ、今は『会わない』ようにしよう。それが収束への早道だ」と訴える全面広告を地元紙に掲載した。
地域ごとの方言で「帰省自粛」を呼びかけ
担当した広聴広報課の職員は「ウイルスの流行以前から、出身者に『ぜひ帰って来てください』と呼び掛けてきた県です。『帰ってくるな』とだけは言いたくありませんでした。そこで、方言を使ったら否定的なニュアンスが和らぐのではないかと考えました」と話す。 島根県は東部の出雲地域と、西部の石見(いわみ)地域に分けられ、それぞれ言葉が違う。このため出雲地域用は「早く会いたいけん、今は帰らんでいいけんね。」、石見地域用は「早く会いたいけぇ、今は帰らんでいいけぇね。」と大書した。さらに全県共通のメッセージとして「ここ島根で生まれたそのつながりは、距離に負けるほど弱くはないと思うのです。近いうちに、いつも通り会える日が必ず来ます」と記した。そして 県の公式Facebook にも載せた。 大きな反響があった。Facebookには「とても素敵なメッセージで心に響きました。この新聞をきっかけに島根にいる親と会話したり、普段のGWでは電話をすることのない島根の祖母とも電話をし、改めて地元が好きになりました」とコメントした人もいた。「いいね」は5月1日までに1200件を超えた。
岐阜県の國島芳明・高山市長、都竹(つづく)淳也・飛騨市長、成原茂・白川村長の3人
動画では「観光地、お店、自然豊かな場所すらも、新型コロナウイルスから地域を守るために、ほぼお休みしております」「この新型コロナウイルスが収束した折には、地域を挙げて皆様を歓迎させていただきます。そして、飛騨の魅力を存分に楽しんでいただけるよう、精一杯のおもてなしをさせていただきます。それまで、今しばらくお待ちいただきますようお願いいたします」などとリレーで述べ、最後に「大変辛く、また失礼なお願いかとは存じますが、ご理解ご協力をいただければ幸いです」と深々を頭を下げた。 これほど丁寧に「お断り」されたら、誰しも悪い気はしないだろう。むしろ、支援したくなるかもしれない。それにしても「お休み中」とは、しゃれた言い方だ。 高山市の清水雅博・秘書課長は「文案は3首長が集まって練り、『お休み中』は都竹飛騨市長が発案しました。外出自粛が長引いて、社会の不安がどんどん大きくなっています。他を排除するような風潮も広まっています。こうした時の言葉は、発し方一つで敵対心を生みかねません。今だからこそ丁寧に発信しないといけないというのが3人の考えでした。飛騨は新幹線も通っていなければ、飛行場もない不便な所です。にもかかわらず、遠方から多くの人が観光に来てくれます。『お休み』という柔らかい言葉には、私達の感謝の気持ちが込められています」と解説する。
國島高山市長は、これとは別に独自のメッセージも出している。ここでは医療資源が乏しく、感染者が出たら医療崩壊に直結しかねない地域事情を切々と訴えるなどした。そして、子や孫を帰省させなかった市民に対しても「ふるさと高山を出て都会の大学に通う子どもたちが、不安の中、都会で一人耐え忍ぶ姿を想像する時、本当につらく悲しい気持ちとなります。ふるさと飛騨高山は、高山で生まれ育った皆さんを誇りに思っていること、終息すれば、ふるさとはいつでも温かく迎え入れること、合わせてお伝えいただければ幸いです」と記した。 飛騨の人情深さが感じられる文面だ。
宮崎県日南市は特産品のマンゴーを活用
「帰省断念」への感謝の気持ちを特産品のお礼で示す自治体もある。宮崎県日南市だ。
「行かない、来ない、呼ばない宣言」を4月21日に行った崎田恭平市長は、4月29日~5月10日の間に帰省を断念し、航空機などをキャンセルした先着50人に、特産のマンゴー1キログラム分(時価4000~5000円相当)をプレゼントすると発表した。
「景気悪化の影響などからマンゴーの売れ行きが落ちています。そこでPRを含めて、帰れない分、故郷を味わってほしいと考えました」と担当職員は話す。
千葉県勝浦市など房総半島の6市町村の首長
危機にこそ試される“首長の発信力”
千葉県勝浦市など房総半島の6市町村の首長が出した共同メッセージには誠実さが感じられる。 6市町村は太平洋に面していることからサーフィンに訪れる人が多い。しかし、高齢化が進み、医療資源も乏しいため、感染が拡大すると致命的な影響を受ける。そこで「苦渋の決断」で自治体所有の駐車場を閉鎖した経緯を説明した。 「新型コロナウイルス感染症の危機が去りました暁には、わたくしどもの地域をあげて、従来にも増す熱意で皆様をお迎えさせて頂くことをお約束いたします」として、その時には「お互いに大輪の笑顔で、再会を祝しあえるように」とメッセージに書き込んだ。
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